起风了 | 風立ちぬ-17 NJ:初声日语教学部@派派
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发布于:2019-08-20 21:42

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初声日语教学部&初声日语电台联合制作——全书朗读《起风了(風立ちぬ)》

風立ちぬ-17

朗读:初声电台 派派

作者:堀辰雄

音审校对:教学部茉莉&电台Seki

后期制作:小樱

私はその森を出た。大きな沢を隔てながら、向うの森を越して、八ヶ岳の山麓(さんろく)一帯が私の目の前に果てしなく展開していたが、そのずっと前方、殆んどその森とすれすれぐらいのところに、一つの狭い村とその傾いた耕作地とが横たわり、そして、その一部にいくつもの赤い屋根を翼(つば)さのように拡げたサナトリウムの建物が、ごく小さな姿になりながらしかし明瞭(めいりょう)に認められた。

 私は早朝から、何処をどう歩いて居るのかも知らずに、足の向くまま、自分の考えにすっかり身を任せ切ったようになって、森から森へとさ迷いつづけていたのだったが、いま、そんな風に私の目のあたりに、秋の澄んだ空気が思いがけずに近よせているサナトリウムの小さな姿を、不意に視野に入れた刹那(せつな)、私は急に何か自分に憑(つ)いていたものから醒(さ)めたような気持で、その建物の中で多数の病人達に取り囲まれながら、毎日毎日を何気なさそうに過している私達の生活の異様さを、はじめてそれから引き離して考え出した。そうしてさっきから自分の裡(うち)に湧き立っている制作慾にそれからそれへと促されながら、私はそんな私達の奇妙な日ごと日ごとを一つの異常にパセティックな、しかも物静かな物語に置き換え出した。……「節子よ、これまで二人のものがこんな風に愛し合ったことがあろうとは思えない。いままでお前というものは居なかったのだもの。それから私というものも……」

 私の夢想は、私達の上に起ったさまざまな事物の上を、或る時は迅速に過ぎ、或る時はじっと一ところに停滞し、いつまでもいつまでも躊躇(ためら)っているように見えた。私は節子から遠くに離れてはいたが、その間絶えず彼女に話しかけ、そして彼女の答えるのを聞いた。そういう私達についての物語は、生そのもののように、果てしがないように思われた。そうしてその物語はいつのまにかそれ自身の力でもって生きはじめ、私に構わず勝手に展開し出しながら、ともすれば一ところに停滞しがちな私を其処に取り残したまま、その物語自身があたかもそういう結果を欲しでもするかのように、病める女主人公の物悲しい死を作為しだしていた。――身の終りを予覚しながら、その衰えかかっている力を尽して、つとめて快活に、つとめて気高く生きようとしていた娘、――恋人の腕に抱かれながら、ただその残される者の悲しみを悲しみながら、自分はさも幸福そうに死んで行った娘、――そんな娘の影像が空(くう)に描いたようにはっきりと浮んでくる。……「男は自分達の愛を一層純粋なものにしようと試みて、病身の娘を誘うようにして山のサナトリウムにはいって行くが、死が彼等を脅かすようになると、男はこうして彼等が得ようとしている幸福は、果してそれが完全に得られたにしても彼等自身を満足させ得るものかどうかを、次第に疑うようになる。――が、娘はその死苦のうちに最後まで自分を誠実に介抱して呉れたことを男に感謝しながら、さも満足そうに死んで行く。そして男はそういう気高い死者に助けられながら、やっと自分達のささやかな幸福を信ずることが出来るようになる……」


(因中文译文版已有出版作品,故本节目不备注中文翻译)